赤い流れ星3




(たいしたことじゃないのに……)



部屋に戻り、ベッドに寝転んだ俺は、もやもやする気持ちにどうにもおさまりが付けられなかった。
寝てしまおうと思って目を瞑っても少しも眠くならない。
酒でも飲もうかと思ったが、誰かと顔を合わせるのもいやだった。
イヤホンを付け、大音響で好きな音楽を聴いてはみたが、激しい音楽も俺の頭をただすりぬけていくだけだった。



俺は、ベッドの端に腰掛け、もう一度、野々村さんからのメールを開く。



『素敵なネックレスをどうもありがとうございました。
大切にします。』



やはり違う。
いつもの野々村さんの文面とは明らかに違う。
絵文字や顔文字はいつもないから、そんなこととは違う。
なんていえば良いのか…いつものような親しみというのか、野々村さんの気持ちのようなものがまるで感じられない。



なぜだろう…?
先週は、特に変わった様子なんて何もなかった。
ただ、車に酔って……
……もしかしたら、体調でも良くないんだろうか?
今まで野々村さんは特に体調が悪いなんてことはなかったが、誰しも急に体調が悪くなることはある。
でも、それだったら、美幸の誘いにも出て行かないんじゃないだろうか?
週末には、大河内さんの所へも行くつもりのようだし、やはり体調は違うか?
じゃあ、なんだ?
美幸の言っていたように、ただ、女同士でお揃いというのが気に食わなかっただけなのか?



なぜ、こんなにも気になってしまうのかわからなかった。
別に、好きな女に気合いを入れてプレゼントをしたわけでもなんでもない。
ただのついで…気が向いたから、安いネックレスを贈っただけのことだ。
それが、気に入ってもらえなかったとしても、何を気に病むことがある?
どうでも良いことじゃないか…



そう考えながら、実は心の奥底では、俺にはなんとなくこのすっきりしない気持ちの原因がわかってもいた。



きっと予想とは違ったからだ。
野々村さんはいつもちょっとしたことにでも、大袈裟な程、喜んでくれる。
今回みたいなプレゼントをしたのは初めてだから、今回はきっといつも以上に喜んでくれると俺は思いこんでいたんだろう。
それが期待はずれだったから…
それに……野々村さんは俺に想いを寄せていてくれていると、どこかに過剰な自信を持っていたのかもしれない。



でも、それは俺の自惚れだったようだ。
もしもその想いが熱いものなら、美幸とお揃いだろうがなんだろうがもっと喜んでくれるはずだ。
俺は、自信過剰な自分自身に思わず失笑した。
< 74 / 761 >

この作品をシェア

pagetop