【短編】愛して欲しい。
後ろから邪魔する声が出てくる唇を無理矢理塞いだ。
俺は、2つの事が同時に出来ないタチだ。
そんな自分を今。
心底嫌いになった。
地面で逆さになった傘へ落ちる雨粒の音で我に返った。
な、何してんだよ、俺はっ!!!
強引に莉衣の唇を塞いでる事に気がついた俺は、ゆっくりと離し、大粒の雨が髪へと落ちる。
「浩……濡れてるよ」
こんな時も顔色ひとつ変えないで、俺に傘を傾ける余裕のある莉衣に何だか悔しくなった。
焦ってるのは俺だけ、なんだって思い知らされるみたいで、虚しくもなった。
そのまま莉衣の手を引き、家までと歩く。
その手を振り解かないのは、余裕?
それとも哀れみ?
どちにせよ、俺ばっかなんだ。
このまま家に戻って話をしたところで、何かが変わるのか。
その答えは限りなく0に近い気がするのに……どうして俺は、この手を離せない?