さくら町ゆめ通り商店街~小さなケーキ屋さん~
みどりさんが店から立ち去ったあと、奪い合うようにして「シティ・タイムズ」を読んだ。


「この町には、元気のいい商店街がある。そして、元気のいい店主がいる」

「和菓子の老舗に生まれた重蔵。
しかし、決められた道を歩くのがいやだった。
父親の猛反対を押し切って、家を出て洋菓子の修業を始めた」

「修業先で、現在の妻、登美子さんと出会い、結婚。
結婚式には、父親は出席したが、
口をきいてもらえなかった」

「長女の誕生を祝うために、初めて家にやってきた父親に、重蔵は心をこめて焼いたケーキを出した。
父は、黙って食べ、一言『うまいな』とつぶやいた。
重蔵は思う。
あのときの『うまいな』は今までの人生の中で、最高の褒め言葉だった、と」

「人々は『スイーツ』という言葉を使うようになった。
しかし、重蔵のつくるのは『スイーツ』ではなく、『ケーキ』だ。
おシャレじゃなくていい。
自分が自信をもって作り続けている『ケーキ』を、みんなに食べてもらいたい」

「ケーキは、人生の彩り。
食べた人の人生より豊かにする、うまいケーキを作りたい」



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