理想の都世知歩さんは、




彼は、伸ばしかけた手を引っ込めて、恐らく小さく笑って、さよならの言葉を言った。


りっちゃんが去り際にそんなことを言うから。



「……っ」


一人になったあと。


唇を、噛みしめて歩き出す。






「――――――衵」




背中の向こう側から、声がした。




振り返って、視界が滲んで滲んで、滲んで。どうしようもなくなる。



都世地歩さんはふと笑って「あーあ。凄い顔」って。



簡単に傍に寄って泪に手を伸ばしてしまう。


絶対勝手に逃げ出すと思った、って。だからわざとトイレ行く振りしたって言った。

本当に、凄い。

都世地歩さん、何でも分かるんだね。


「…でも、衵のことだから絶対泣くと思ってつい」

「私…っ、涙腺崩壊、ぼうぎょしようと思って……ったのに、」

「あーはいはい落ち着け。ったく、子離れできないだろ」


本当なら、傷付くはずの言葉さえ愛おしいなんて。私はおかしい。


「…何笑ってんの」

「ずびばぜ……ふふ」


「衵」


そうやって何度も、呼んでくれて嬉しかった。





「待ってるから」



「ぇ…」



「泣きたくなったら帰ってきていいよ」




都世地歩さんは、ふわりと微笑む。



新しい生活が始まる夜、怖くて泣いたあの日みたいに。




「もしその時、誰かがだめだって言ったら連れ出してやるから」


な、って。



私を送り出した。





――本当は、寂しい。


本当は、好き。



さみしい。




すき。






都世地歩さん。







心の内でだけ云わせて。








本当は、大好きでした。









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