理想の都世知歩さんは、
視界の隅に映る、『泣く子も黙る』らしいサンタ帽を手に取る。
わざと持って来たのかと思うくらい偶然。
『クリスマスは、明後日』
壁を背に、床にしゃがみ込む菜々美の頭に被せた。これを言ったら、どんな表情をするのか。考えながらだったかもしれない。ただ笑ってほしいと思った。
「結局自分が被る羽目になったなー」
唇を噛み締める彼女は震えていて。
涙を次から次に落としてはきつく瞬きを繰り返して嗚咽を堪えていた。
可哀想だと思った。
「…菜々美、すきだよ」
「――――」
「涙止まる?」
「……え」
じょうだんかと不思議そうな顔をする菜々美を、こういう意味で「いとおしい」と思うのは、これで最後がいいと思った。
そう思って、微笑んだ。
急いで紡いだような自分の好きを、涙を止める為に使ったつもりじゃない。
でもそれで止まるなら、もうそれで充分だから。
「…とまったらで大丈夫だから、返事。ください」
ああでも、今にも泣き出しそう。
案の定菜々美は泣き出して、零れ落ちる涙も拭わないまま何かを伝えようとしてくれた。
ありがとうとだけ返してくれた。
何度も、
何度も。
言い方を変えてはそう言って。それでよかった。
菜々美。
その「好き」を叶えて。
先に振ったひと。
約束して。
後で、叶えてくれないと俺も困るよ。
菜々美は、「ごめん」と一度も口にしなかった。
そういうところが、そっと好きだったんだ。