理想の都世知歩さんは、
「その前に想いがあったものを、簡単に亡くすから。親が離婚して、訳も解らないまま父方に引き取られて、それから会っていない母親の代わりになったひとが、弟を生んだ――こういうことを、“ネタ”として書かれる気がしたから」
「あんまりとくいじゃない」と彼は言った。
妙に現実味のある例えだった。
酷くもきつくもないけれど、緩やかに真を持たれた声。
都世知歩さんの、想いの声に触れた。
初めてだ、恐らく。
「菜々美は始め、資料として見てた」
自分を、と、ぽつりと言葉は落とされる。俯きかける彼の底に。
「父の、息子ってことは始めから薄々知られていて、そうなると俺単体では判らないようなことも父親を通して知られていく。書きかけのプロットを広げてそういう目をした菜々美と初対面だった」
父。
息子が際立つということは、お偉いさんなのだろうか。
「編集をかじってて。聞いた。『何で売れようとすると登場人物の大切な人を殺す物書きがいるのか』って」
…すごいことを聞くな、都世知歩さん。
「…衵は何でだと思う?」
「え」
突然質問されて、真っ直ぐ彼を目にする。
彼を目にした瞬間、どうしてか正解のない答えは口からついで出た。
「怖いけど、その大切な人が亡くなることが、書き手は一番辛い事でも身近にあって感じられることでもあると知っていて――そこから幸せになれるって、教えてあげたいからじゃないかな…。でも、」
「でも?」
「でも私は、今言った長い答えの中の、『幸せに』だけ取って、幸せになれるじゃなくて幸せになるだけの話の方がすき」
それを聞いた都世知歩さんは一瞬きょとんとして、それから私も驚くくらいの大きな声で笑った。