初恋は雪に包まれて
「えっ、と……うん、そうだよ。」
「ふうん……」
「伊東くん……?」
そう言ってまた黙ってしまった彼は、大きな右手をポケットから出すと自分の顎を親指でなぞるように触った。
これは確か、彼が考え事をしている時の癖だ。仕事中もたまに見かける。
「今他に好きなやつもいないんたよな?」
少し考え込むような仕草をしていたかと思えば、そんな意外な問いかけをされた。
「……うん、いないよ。」
私が小さな声でそう答えると、彼は微かに口の両端を上げた。
なかなか見たことがない、というか初めてであろう彼のわかりにくい笑った顔。笑顔、と言い切るには爽やかさはなく、どちらかと言うと何かを企んでいるような顔に近い。
「じゃあ、さ……」