初恋は雪に包まれて
しばらくして伊東くんは私の頬を解放した。
再び冷たい風に晒された頬を自分の手のひらで覆う。そこはまだ熱を持ったままだった。
歩いていく彼の背中が離れていく。広い肩と、引き締まった腰。
それをぼんやりと見つめていると、急に彼が振り返った。
「風邪ひく。行くぞ。」
彼の鼻が少しだけ赤みを帯びている。その姿はなんだか子どものようで、普段のクールな雰囲気とは正反対で可愛らしい。
……でもそんなことを言ったら、きっとまたその眉をひそめてしまうから。今はやめておこう。
そんなことを考えながら、彼の後を追う。その時、あることを思い付いた。
「ねぇ、伊東くん、」
それって……、誉め言葉?
今日の彼の言葉を拝借してみる。それを耳にし、振り返った彼は少しだけ驚いたような顔をしている。
すると、すぐに無表情になったかと思ったら、次はいつか見た意地悪そうな顔に変わった。
いつか見た、あの顔。
そして、ゆったりとした口調でこう言った。
「……そうだよ。」
取られた手はあたたかい。
彼も私の手をあたたかいと感じてくれていたら嬉しいな。
そして、
彼のこんな優しい声は、
私しか知らなければいいのにと、
冬の空を見上げながら思った。