翼のない天狗

 一度、「落ちて」来た天狗だ。この天狗を見たことのある者が幾人かいる。
「これを返しに来た。誰かの魂だと聞いている」
 車座になった人魚の中で深山は話す。勿論、その場には氷魚がいる。そして雰囲気からして、自分は今いない方が良い。それも解っている。しかし自分にとって大切なのは氷魚ではない。友だ。

 どれ、と促される。深山はすっと腕を伸ばし、魂の玉を出す。氷魚は驚きに見開いた目を深山に向けた。が、深山はそれを受け流す。
 他の人魚が仲介して、その玉は汪魚の元に渡った。汪魚はそれを氷魚に見せる。これは流澪のものか。

「……はい」
 氷魚は観念して、頷いた。

 
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