翼のない天狗



「有青に何をなさったのですか? 紫青様」
 意識を失った有青の枕元で、花の君は紫青に聞く。藤紫の瞳がふっと緩んだ。
「己が私の血を引いているということを解って欲しかったのだよ」

 花の君、とその手を取った。
「そなたには、まこと済まないことをした」
「済まないこと」
 視線が絡む。そこにまやかしはない。
「仕合わせになる道はいくらでもあったろう。入内することも可能だったろう。私の子を孕んだが為に、長い年月を棒に振ることとなってしまった」
 いいえ。花は首を横に振る。
「本当に良い子を頂きました」

 ゆっくりと手を離した。
「何処へ」
「冥王山。私はそこにいる。有青にも伝えて欲しい」
 そして天狗は消えた。
「会いに来ては下さいませんか」
 風が花の君の頬をそっと撫で、屋敷の中を通り抜ける。
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