翼のない天狗

 絡んだ指。滴る汗。混ざる吐息。

「清青様……」
 二十年の空白を埋めるように、清青と氷魚は抱き合う。豊備の滝の傍に小さな庵を結んだ。

 空の色が変わり始めた頃、氷魚は告白した。
「私は石女です」
 ウマズメ。子の宿せぬ体である、と。
「それでも、あなたの傍にいて良いのですか?」
 何を言うか。清青は優しく笑み、氷魚の顔に手を添えた。

「私もそなたも、己が何なのかを長い時間考えて、そして悩んでいた。けれども」
 目と目が合う。
「互いに愛しくてたまらない……」

 何者であっても、どんな色を持っていようとも、私は私でそなたはそなた。いとしいと思い合い、思いは通じている。それだけでいいのだ。

 あなたがいるから、今、私は生きている。

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