翼のない天狗
「多くの仲間と生き、小さなひれを動かしていたかった。生きることだけを考えている、小さな小さな魚になりとうございました」
氷魚は清青の右手を自分の胸の上へ誘った。左手で清青の手を押さえ、自分の右手は清青の胸の上に置く。
「願わくば、次の世でまた結ばれんことを」
「氷魚」
「共に、この広い海の泡となりま……」
か細い腕を払いのけ、清青は氷魚を抱きしめた。
「氷魚」
「消えてしまいたい。清青様、姉様の元へ参りたいのです」
氷魚の声に嗚咽が混ざる。清青は、腕の中の不規則な動きに、その命を感じている。
「どうか私を、姉様の元へ行かせてください。私はここに居てはならぬ身なのです。姉様のそばにいたい。兄上や、水王、流澪殿がいる此処に、もう居とうない……」