翼のない天狗
 すでに肌よりも格別柔らかい房を流澪の手は掴んでいる。
「どうして、清青の名をあれ程愛しく呼ぶのですか…私はあなたを」
「離し……くだ……さい」
 搾り出すような声に流澪は我に返った。

「申し訳ございません」
 謝るがこの言葉に力はない。

「殿御は皆、こうなのですね」
 氷魚は着物を正す。
「長も、他の雄魚の方もそうです、あの山人もそうです…私を」

 涙が目の端に浮かぶ。
「私を何だと思っていらっしゃるのですか」
「氷魚様……」
「私に触れなかったあなたは、私の救いでございましたのに……流澪殿」
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