キミとの距離は1センチ
うきうき気分で自分のデスクに戻る途中、カタカタとよどみなくキーボードを打っていた伊瀬と、バッチリ視線が絡まった。

だけどそれは、一瞬のこと。ふいっと何気ない動作で、すぐに逸らされてしまう。



「………」



……やっぱり、今日もか。


内心でため息をつきたい衝動をこらえ、伊瀬の後ろを通り過ぎる。

自分の椅子に腰をおろしてから、もう1度、彼へと目を向けてみるけれど。

相変わらずその切れ長の瞳は、パソコンのディスプレイしか見ていなくて。わたしもすぐに、視線を外した。


なんだか、最近……伊瀬に、避けられている気がする。

というか、よそよそしい、っていう方が、近いのかも。


いつから、とか。なんで、とか。

そんなことは、全然わからない。


あれ?って違和感を覚えたときには、もうそれは、ほぼ確実なものだった。

挨拶はするし、仕事の話もする。周囲の人間から見て不自然じゃないくらい、他の同僚たちも交えての雑談もする。

……けど、それだけ。今までふたりだけでも普通にあったくだらない雑談や、些細な視線の交わりが、今のわたしと伊瀬の間にはまったくと言っていいほどない。

たぶん、まわりの人たちは気付いていないくらいの、その変化。

だけど当人であるわたしにとっては、伊瀬の態度は“不自然”そのものだった。
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