キミとの距離は1センチ
……わたし、何か伊瀬の気に障るようなこと、しちゃったかな?

最近の自分を振り返ってみるけれど、特にこれといった決定打はないし……何より伊瀬の性格上、わたしの態度なんかで腹が立てば、すぐにその場で指摘してくれるはずだ。

それもなくて、ただ、よそよそしい。こんなの、どうしたらいいかわかんないよ。



「珠綺さん、珠綺さん」



自分を呼ぶ声にハッとして、わたしは顔を上げた。

声がした方に首をめぐらすと、隣りのデスクのさなえちゃんがきょとんと目をまたたかせている。



「珠綺さん、ぼーっとしちゃってどうしました? もうお昼ですよ」

「っえ、わ、ほんとだ」



卓上時計を確認したら、たしかに12時を過ぎている。

今日は社員食堂で、都と一緒に食べる約束をしていたのだ。


デスクの上に出しっぱなしだったボールペンをペン立てにしまって、パソコンをスリープモードにする。

すると隣りで席を立とうとしていたさなえちゃんが、なぜか「あっ」と声を漏らしてこちらを振り向いた。



「そうだ珠綺さん、よかったらこれ……」

「ん?」



言いながらゴソゴソ、さなえちゃんは自分のお財布の中を探っている。

……今日の彼女の髪型は、ビーズのバレッタがアクセントになっているフィッシュボーンのおさげだ。チョコレートみたいな髪色にとても似合ってて、かわいい。
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