キミとの距離は1センチ
ぎゅっと、左胸の前の服を握りしめる。

そこでいきなり伊瀬がこちらを振り向いたから、余計驚いて肩がはねた。



「な、なに、」

「佐久真、あれ」



彼があごでしゃくって見せた方向に、視線を向ける。

そこにいる人物に気付いて、わたしは目をまるくした。



「……宇野さん?」



ちょうどマーケティング部のオフィスから出て来たのは、見間違いようもなく宇野さんだ。

彼は近付くわたしたちに気が付くと、その顔に笑みを浮かべる。



「珠綺ちゃん伊瀬くん、お疲れ。ウォーターパーク以来だね」

「……お疲れさまです」

「お疲れですー。宇野さん、マーケティング部に来るなんてめずらしいですね」

「うん、たまにはね。珠綺ちゃんを驚かせてみようかと思って」



そう言ってにっこり、極上の笑顔で宇野さんはわたしを見下ろした。

そんな宇野さんに、わたしもあははと笑う。



「あは、ちょっとびっくりしましたよー。何か用事、ありました?」



言いながら見上げると、なぜかそこで宇野さんは、ちらりと伊瀬の方を一瞥して。

次の瞬間、彼はその長身を屈め、わたしの耳元にくちびるを寄せた。
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