キミとの距離は1センチ
それで、ね。

やはり口元に笑みをたたえたまま、宇野さんは続けた。



「この機会に……珠綺ちゃんには、俺と別れてもらいたいんだよ」

「──、」



そのせりふに。今度こそ、わたしは言葉を失った。


……ええと。わたし、今。

彼氏である宇野さんに、別れを切り出されて、る?

今さらながら、どくどくと心臓が激しく脈打ち始めた。



「ごめん、そりゃ固まるよね。いきなりこんな話されたら」



そう言った彼が、近くを通りかかった店員さんを呼び止め、お冷やをふたつ注文する。

わたしはこくりと、唾を飲み込んだ。



「……わたしと別れたいのは、遠距離になるからですか?」



なんとかしぼり出したその問いに、宇野さんはあっさりと首を横に振る。



「違うよ。俺ときみは、たぶんそういうことで、ダメになってしまうようなタイプではないからね」



それは、たしかにそうだ。わたしも宇野さんも、毎日会いたい、常に連絡とっていたい、そんなタイプではない。


……じゃあ。



「……じゃあ、どうして……」

「うん。俺もきみのことはかわいいと思ってるし、ちゃんと後腐れなく俺と別れて、しあわせになってもらいたいから……だから俺も、適当に誤魔化したりしないで、本当のことを言おうと思ったんだけどね」
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