キミとの距離は1センチ
どくどく、心臓が嫌な音をたてる。

ぎゅっと膝の上の両手を握りしめたとき、宇野さんが小さくため息をついたのが聞こえた。



「ごめんね。きみはこのくらい言わないと、自分でも気付かないと思ったからさ。俺は本当に、珠綺ちゃんにはしあわせになってもらいたいから」



宇野さんの声が、なんだか遠く聞こえる。

……わたしはずっと、このやさしい人を、無意識に利用していたのだろうか。



「……あ、ありがとう、ございます……」



なんとかそれだけをしぼり出して、わたしは、自分のバッグを手に取る。



「あの、すみません。わたし、今日はもう、帰ります」

「……そっか。ここのお代は、もちろん俺が出すから。珠綺ちゃんは、気にしないで帰っていいよ」

「……ありがとうございます。ごちそうさまです」



早くこの場を去りたくて、わたしは素直に、その言葉を受け入れた。

さよなら、とペコリとお辞儀をしてから、靴を履いてレジの前を通り過ぎて、店を出る。

外は、しとしと雨が降り注いでいたけれど。傘がないことにも構わず、迷うことなく足を踏み出した。
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