キミとの距離は1センチ
「い、」

「……おまえは、大丈夫じゃないときこそ、『大丈夫』って、言うだろ」

「……ッ、」

「話くらい、聞くから。……だから、そんな顔で『大丈夫』なんて、言うな」



……そんな顔、って。今のわたしは、一体どんな顔をしているんだろう。

伊瀬がわたしの手を引いて、完全に傘の中に入れた。彼の真っ黒な傘は大きいけれど、それでも少しだけ、伊瀬の肩がはみ出してしまう。



「伊瀬……肩、濡れてる」

「いい。気にするな」



そう言って小さく笑う彼を、わたしはたぶん情けない表情で見つめた。

ふっと伊瀬が、そこで表情を消す。



「おまえ、びしょ濡れだし……俺の家でも、いいか?」



たぶんここからなら、伊瀬の住むマンションまで歩いて5分くらいの距離だ。

わたしは申し訳なく思いながら、無言でこくりとうなずいた。

それを見た伊瀬がわたしの手を掴んだまま、同じように無言で歩き出す。



「………」



……また、迷惑をかけた。本当にわたしは、ダメな人間だ。

それでも彼は、手を引いてくれる。それがうれしくて、また目頭が熱くなった。

伊瀬のあたたかい手が、心地よかった。
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