キミとの距離は1センチ
しばらく細い路地を進んだ先に、伊瀬の住むマンションはあった。

途中通って来た道はよくわからなかったけれど、マンションがあったのはわたしも知っている通りだった。きっと今来たのは近道だったのだろう。


オートロックのエントランスを抜けて、エレベーターに乗る。

わたしが立っている下に、水たまりができてしまっていた。それを見て、伊瀬が小さく笑う。



「明日が土曜日で、よかったじゃん。風邪ひいても、月曜日までには死ぬ気で治せよ」

「ちょ、ひどい、そこは『風邪ひかないように気を付けてね』、でしょ?」

「はは」



彼の軽口に、わたしは安心する。伊瀬が笑うと、わたしもうれしい。

そうしてたどり着いた焦げ茶色のドアに、伊瀬はポケットから取り出した鍵を差し込んだ。



「散らかってるけど。どーぞ」

「……お邪魔します」



伊瀬の部屋は予想通り、シンプルな雰囲気のものだった。

最小限の家具だけが配置された、ワンルーム。本人は散らかってるとは言うけれど、わたしは全然そうは思わない。

少しだけめくれたベッドの上のタオルケットだけが、唯一生活感を感じさせた。
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