キミとの距離は1センチ
「──はい。熱いから、気を付けろよ」

「あ、うん。ありがとう」



ベッドとテーブルの間に腰かけてぼんやりしていたわたしの目の前に、伊瀬がマグカップを差し出してくれた。

中身は、あつあつのコーヒーだ。わたしはそっと、そのマグカップを両手で包み込む。


家に上がると、まず伊瀬はわたしにタオルを渡してくれて。それから、着替えまで貸してくれた。

半袖パーカーと、スウェットのズボン。わたしのびしょ濡れの服は、今は洗濯機の中で乾燥させてもらっている。

彼に渡されたパーカーに袖を通すと、身長はほとんど変わらないはずなのに、なんだかだぼっとしていて。やっぱり伊瀬も、わたしとは違う“男”なんだと改めて自覚する。

ちなみにこちらもサイズが大きかったスウェットは、裾を折って七分丈くらいにして。髪もしっとり濡れてしまったので、今は結っていたシュシュを外し、そのままおろしてしまっている。


伊瀬が差し出してくれたマグカップには、なんだかオシャレなネコの顔が描かれている。

思わず小さく笑うと、彼が不思議そうにしながら、テーブルの角に腰をおろした。



「なに?」

「いや……伊瀬、このマグカップ自分で買ったの? かわいい」

「……それは、母親が来客用にって勝手に置いたんだよ。俺のはこっちだ」



そう言って持ち上げて見せたのは、伊瀬らしい無地のマグカップだ。色はネイビー。

憮然としたそのカオにまた笑うと、ますます彼は不機嫌そうにする。
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