キミとの距離は1センチ
ねぇ、伊瀬。わたしはあんたのこと、大切な同期だと、思ってたよ。

あんたは、違った?

伊瀬にとってわたしは、自分の欲を満たすために軽々しく抱けるような、そんな女だった?

同期として過ごした数年間は、そんなに薄っぺらいものだったの?


誰のせいだ、という思いを込めて涙目のまま睨んでやると、伊瀬がふっと苦笑した。



「いいよ、今──……何も考えられないように、してやる」



わたしが言葉を発する前に、また深く、くちびるを塞がれる。

そしてくちびるを合わせたまま、伊瀬が軽々と、わたしのからだを抱き上げた。



「……、」



背中に感じのは、布団のやわらかさとベッドのスプリング。

押しつけられていた両手は解放されたけれど、そのまま、両方のひざの裏を持たれて。キスに翻弄されながら、この先の展開にからだが震えた。


そうだ、今の伊瀬は──……理性的、ではないんだ。

だってどうしてか彼は、わたしを抱こうとしている。

正気じゃない伊瀬が、同期という壁を、ぶち壊して。わたしに、触れている。



「佐久真……」



熱っぽく、つぶやいたその声に。

彼の本気を感じて、わたしはきつく、目をとじた。
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