キミとの距離は1センチ
目が覚めた部屋は真っ暗で、わたしは闇に目が慣れるまで、しばらくじっとしていた。

ようやく部屋の中の輪郭がぼんやりと見えた頃、そっと、静かに上半身を起こす。

その拍子にタオルケットが、素肌を滑って落ちた。



「………」



すぐ横に視線を向けてみると、わたしと同じように裸のまま眠っている伊瀬がいる。

こちらに背を向けるようにしているその姿を見て、ズキンと胸が痛んだ。


……何度目かの行為の後、気を失うように眠ってしまったわたしの頬を、彼が慈しむように撫でていたことは覚えている。

わたしはそっとベッドを抜け出して、床に散らばった自分の下着を手早く身につけた。

散々喘がされたのどはカラカラで、けほ、とひとつ、咳払いをする。

それから洗濯機の中でとっくに乾いていた服を着て、伊瀬から借りた服はそのままバッグに突っ込んだ。



「……帰るのか?」



バッグを肩にかけて立ち上がった瞬間聞こえた声に、びくりとからだが反応した。

反射的に振り返ると、いつの間にかベッドで上半身を起こしていた伊瀬が、だるそうに頭に片手をやりながらこちらを見つめている。
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