キミとの距離は1センチ
でも、ほんとは違うんだ。

わたしだって、悩むよ。元気じゃないときだって、あるんだよ。

芽生えてしまった感情が、痛くて……泣いてしまうことも、あるんだよ。



「さなえちゃんと伊瀬が一緒にいるのを見て、嫌な気持ちになったの……っ」

『うん』

「こ、告白も、聞いちゃって……っすごく、焦って、それで……っ」

『……うん、』



すうっと、息を吸い込む。

小さく、だけどはっきりと、わたしは自分の気持ちを吐き出した。



「わたし、伊瀬のこと……っ誰にもとられたくない……!」



電話の向こうで、都が笑った。

仕方ないなあ、ってため息を吐いて、またやさしく言葉を紡ぐ。



『……答え、出たじゃない』



──ああ、そっか。

なんですぐに、わからなかったんだろう。

なんですぐに、気付けなかったんだろう。


こうやって遠回りしないと、自分の気持ちにすら気付けない。ほんとにわたしは、鈍感だ。


たった1センチの身長差に固執するくらい、きっとわたしは、今までずっと彼のことを意識していたのに。



「……わたし、伊瀬がすきだ……っ」



──だって、伊瀬は最初から、



《……よかったね》

《え、》

《俺が偶然、佐久真さんのこと見つけて》



わたしの中で、ヒーローだったんだよ。
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