キミとの距離は1センチ
『一緒に仕事してる感じ、ふたりは付き合ってる雰囲気出てるわけ?』

「……ふ、ふつう……」

『あ〜はいはい、超絶ニブチンの珠綺ちゃんに訊いたあたしが馬鹿でした』

「………」



な、なによう……そんなのわかるの、都みたいに恋愛経験豊富な人だけだってば。


思わず不満げにくちびるをとがらせていると、はあっと、大きなため息がスピーカー越しに聞こえる。



『まあ……当たって砕けろ、までは言わないけどさ。だけど自分の気持ちちゃんと伝えないと、絶対珠綺、後悔するよ』

「……うん……」

『……伊瀬くんは大丈夫、だと思うんだけどなあ』



ぼそっと小さなそのつぶやきは、ちゃんとした音でわたしの耳に届かなった。

思わず「え?」と聞き返したけれど、都はなんでもないと笑う。



『それじゃあ、そろそろおやすみ。明日からの土日の間、ちゃんと覚悟決めときなよ?』

「う……が、がんばる」

『マジでがんばりなよ?』

「……おやすみ」



通話が切れたのを確認して、スマホのディスプレイを見つめたまま、深く息を吐いた。

そのままぼすん、と後ろに倒れ込む。

ふかふかのベッドは多少軋みながら、わたしを受け止めた。
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