キミとの距離は1センチ
味のある木製の引き戸を開けると、とたんに「いらっしゃいませー!」と威勢のいい声たちが飛んできた。

今日が金曜日ということもあって、店内はすでに混み合っている。紺色のエプロンをつけた店員に案内されて、カウンターにほど近い小さめなテーブル席に腰をおろした。



「ふいー、やっと落ち着いた! 珠綺、今日は忙しくなかった?」



別の店員さんが持ってきてくれたおしぼりで手を拭きながら、目の前に座る都(みやこ)が訊ねてくる。

同じようにおしぼりを広げながら、わたしは笑顔を返した。



「ま、そこそこね。都こそ、よくこの時間で終わって来れたね」

「また雑用押し付けられそうになったから、逃げて来た。ハイハイってあたしが何でも引き受けると思ったら大間違いなのよ、アノヒトたち」

「あはは、こわいなあ」



うんざりした表情でメニューを眺める都に、思わず苦笑。

彼女、青木 都も、わたしと同じくブルーバード本社に勤める同期だ。彼女は財務経理部に所属している。


仕事終わりの、午後6時半。今日は前々から、都と飲みに行く約束をしていた。

会社からほど近いこの大衆居酒屋は、お魚なんかもそうだけど、何より焼き鳥がおいしい。

仕事終わりの一杯を、濃いめのタレが絡んだ炭火焼きの焼き鳥と一緒にいただく。うーん、至福。

しみじみ思いながら、都にならってとりあえず生ビールを注文する。
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