キミとの距離は1センチ
「……あれ? 伊瀬は?」



わたしがいるデスクの島まで来た先輩男性社員が、空っぽになっている伊瀬の席を見て誰にともなく問いかける。

その答えを持っているわたしは、バッグからお財布を取り出しながら口を開いた。



「伊瀬なら、さっき自販機のところで休憩してくるって出て行きましたよ。わたしも今行こうと思ってたので、ついでに呼んで来ますか?」

「あー、助かる。急ぎで見てもらいたい書類があってさ」

「了解です」



ほっとしたように肩をなで下ろして、先輩は自分のデスクへと戻って行った。

わたしも席を立ち、お財布だけ持ってマーケティング部のオフィスを後にする。



「……あ、いた」



エレベーターの近くにある、自販機とベンチが一緒に置いてあるスペースを目指しながら、見覚えのある背中を見つけて思わずつぶやいた。

向かって左側の壁に自販機が設置してあり、その奥にベンチが、これもまた壁に沿うように置いてある。

伊瀬は自販機とベンチの間に立っていて、こちらに背を向けているから、わたしにはまだ気付いていない。

「伊瀬!」と少し大きな声で呼びかけたところで、振り返った彼の向こう側に……また別の、ちょっと意外な見知った人物を見つけた。
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