キミとの距離は1センチ
……さすが菜々子さん、タイミングいいなあ。

その話ならつい昨日、本人にしたばかりだ。



「あはは、ダメでした。伊瀬、合コンとか興味ないみたいで」

「え~~っ?! なんだぁ、残念~~」



不満げにくちびるをとがらせて、菜々子さんがわたしを見上げる。



「若くんって、彼女いないんでしょ? それでもダメなんだ?」

「はい……。お役に立てず申し訳ないです」

「え~~ショック~~今夜はまたプロレス祭りで憂さ晴らしかなぁ」

「………」



菜々子さん、また観る気か……。明日はさすがに、社内で遭遇したくない。

ひらひらと手を振って菜々子さんと別れながら、明日は量販営業部のオフィスがある階には近付くまいと固く心に誓う。

ふう、と小さく息をついてから、わたしはオフィスに戻るべく足を進めた。



「………」



伊瀬って、彼女いないよね。どうしてあそこまでかたくなに、わたしや西川さんの話を断ったんだろう。

たしかに伊瀬は真面目だけれど、そこまで融通のきかない人間でもない。先輩の誘いともなれば、仕方なくでもオーケーするような気がするんだけど……。
< 64 / 243 >

この作品をシェア

pagetop