キミとの距離は1センチ
《悪いけど、俺は行かない。佐久真の方も、そう伝えといて》



ふと、思い出すのは。ああ言ったときの、伊瀬の表情。

……伊瀬、なんかあのとき……ちょっとだけ、悲しそうだった。

気のせいかもしれない。でもわたしには、なぜかそう見えたのだ。


そしてあのときの彼の表情を思い出すと、どうしてか胸の中が、もやもやする。

仕事中はいつもポーカーフェイスで、隙のない伊瀬。それでもわたしは、伊瀬のあのカオを、今までにも何度か見たことがあるような気がする。

……いつだったっけ。どんなとき、だったっけ。


伊瀬が、あんなカオをする、理由は──?



「えー! おいそれ、どうしちゃったんだよ!」



わたしの思考を切り裂くように大きな声が聞こえて、思わずそちらに顔を向けた。

廊下の端にいるふたりの男性社員が、何やら盛り上がって話をしている。



「ふふん、似合う? 似合う?」

「いや、別に似合う似合わないの感想はねぇけど……いきなりどうしたんだよ、昨日までボサボサ頭だったくせに!」

「ひでーやつだな! 昨日仕事終わりに、美容室行ってきたんだよ!」
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