キミとの距離は1センチ
わたしたちがウォーターパークの最寄り駅に着く頃には、日中の暑さはだいぶやわらいでいた。

券売機に並んでいる伊瀬を待ちながら、柱に背中を預ける。



「はー……今日、楽しかったです」

「うん、俺も楽しかったよ」



何気ないわたしのつぶやきに、宇野さんがやさしい声を返してくれた。

ちなみにさなえちゃんは、お手洗いだ。伊瀬以外は全員電車通勤でICカードを持ってるから、券売機は徒歩通勤の伊瀬だけ。……伊瀬もICカード買えばいいのに。いくら若年寄りとはいえ、今時おじいちゃんおばあちゃんだって持ってるよ。


くす、と宇野さんが笑みを漏らしたから、わたしは思わずその顔を見上げる。



「? なんですか?」

「いや……いろんなことがあって、おもしろかったなって」



とろけるような笑顔を浮かべるその人は、一体何を思い出しているのだろうか。

思わずじーっと、その整った顔を見つめていると。



「………」



ふいに目の前に、影が落ちてきた。

動けずにいたその一瞬で、くちびるにやわらかな感触。
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