キミとの距離は1センチ
「……う、宇野さん、公共の場でなんてことを……」

「うん、たまにはね」



たぶん赤くなってしまっている頬を手のひらで冷やしながら、憎らしいくらい涼しげな笑顔をうらみがましく見上げる。

ほんと……この人があせってるのとか照れてるのとか見たことないんだけど、どうなってるの。心臓が鉄でできてるの?


そのタイミングでパタパタと足音が聞こえて、わたしは顔を上げる。



「すみません、お待たせしました」



言いながらわたしの隣りに並んだのは、さなえちゃんだ。

すぐに後ろから、伊瀬もやって来る。


よ、よかった……ふたりには見られてなかったみたいだ、今のキス。



「それじゃ、今日はここで解散かな。木下さん、俺と駅一緒だったんだよね。送るよ」

「あ、ありがとうございます……」



宇野さんの言葉にうなずきながら、ちらりとうかがうようにわたしを見たさなえちゃん。

もしかして、気を使われてるかな?

ひらひらと、わたしは片手を振ってみせる。



「さなえちゃん、よかったね。宇野さん無駄にデカいから、こわい人全然寄って来ないよ」

「珠綺ちゃん、ひどいなー」

「あはは」



口元に手をあてて笑ったさなえちゃんに、こっそり安堵。

わたしたちの間に、ヤキモチなんてかわいらしい感情は存在しないのですよー。その点、わたしと宇野さんは似た者同士だ。
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