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 あまりに小さな映画館なので、従業員は俺を含めて4人。これで365日まわす。

 雇われ支配人の大沢さん。73歳で、長いこと映画業界で働いているベテランだが、歳も歳なので出勤はいつも昼の12時頃だ。昼にきて、お茶を飲み、俺と話し、馴染みのお客さんと話し、4時には帰っていく。

 映写機をまわす映写技師の津野田さん。62歳。今では全て機械化されていてシネコンなんかではアルバイトがフィルムのスイッチを押すらしいが、ここではまだ技師が機械を動かす。フィルムをセットして、自分の手で。

 たまに古いフィルムが切れて映像が飛んだり画像が乱れたりすると、津野田さんが器用に直すのだ。そしてお客に謝る。

 しかし、映画って元々そんなんだ、とか、その古い感じが懐かしいと喜んできてくれる映画ファンばかりなので、苦情になったことは一度もない。

 現オーナーの娘さんで実質ここを動かしている妙子さん。28歳。結婚してからすることがなくて暇だと父のもつ映画館に顔を出して、これではいけないと思ったらしく、それからは毎日来ては雑用を片付けていた。

 そして俺。佐藤大介、21歳。大学の3回生。居酒屋のバイトが人間関係で面倒臭くなって辞めた後、駅前をうろついてたら、支配人の大沢さんがよろよろと映画の看板を電柱につけていて、それが余りに危なっかしく、つい手伝ったら、君、うちで働かない?と誘われたのだ。

 先日、窓口だけを担当していたおばさんが腰痛を理由に辞めてからは、このメンバーで映画館は動いている。

 券の販売、それをもぎる、客を誘導する、映画館の掃除、金庫の管理、映画館内の自販機の管理補充、チラシの配布、宣伝広告、電話受付、なんでもやった。

 俺と妙子さんしかそれをする人が居なかったから、一度手を出したら自動的に自分の仕事になった。

 朝シャッターを開けて映画館の一日を始めてから、夜、またシャッターを閉めるまでを全部俺がするので、大学のない日は15時間も映画館にいる計算になる。

 大学の休み期間なんかは、もういっそここに住んだ方が早いんじゃないかと思ったほどだ。


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