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 この映画館では毎日が、まったり、まーったりと進んでいた。

 仕事のほとんど全てが昭和時代のままの手作業なのでやることはいっぱいあるが、のんびりとしていて、いつでも皆でお茶を飲んでいた。

 今日はお客さんが目の前の商店街で買ってきたたこ焼きを差し入れしてくれて、妙子さんと津野田さんとお茶をしていた。

 妙子さんは一人の女性で、しかも若いので、華がある。

 男二人で彼女の喋る話をのんびりと聞いているのもいつもの光景だ。

 長い黒髪を耳の横で一つにくくっている。館内の照明でいつもツヤツヤと輝いてみえた。

 猫目を更に吊り上げて、興奮して話す。ただし、上映中なので一応小声で。

 今日はダンナの文句を言っていた。

 朝、ごみすら出してくれないってどう思う?!って。

 津野田さんが笑いながら相手をしていた。津野田さんは恐妻家だから、ごみ出しどころか何でもやるらしい。

 俺はお茶を飲みながら、時々入口の方を確認しつつ何となく聞いていた。

「大介君は、優しいしよく動くからごみ出しでもやってくれそうよね」

 急に話を振られた。くるくると表情がよく変わる。

「・・・・・仕事ならやりますけど。自分の家のことなら判んないです」

 簡単に答えると、機嫌を悪くしたようだった。

「なあーによ、それー」

 ごみなんか、捨てたことねーし・・・とは面倒臭いから言わない。ただ、ぷんぷんしている妙子さんを見ていた。

 一緒に働くようになって1年近く。

この人と一緒にいると空気が柔らかくなるような気がしている。



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