アプフェル―幽霊と恋とリンゴたち

墓地のリンゴ

「あっ」


「あいつらを知ってるのか?」


シュテファンはどもりながら言う。


「い、いや」


嘘だな。分かりやすいな。まあいいや、ゆっくり聞き出してやるさ。


見下ろすと、若い男は俺を見つけてにやにや笑っている。


「レイ先輩、あれ持っていこうぜ〜」


いててっ、こいつ、ナイフでツンツン小突きやがった。戦争が終わってだいぶ経つと聞いたのに、こんなブツを持ち歩くなんて、なんて物騒なやつだ。


「こら、セルジュ!」


隣のお姉ちゃんが眉を逆立てた。


「いくらボスがリンゴ好きだったからって、墓地のリンゴを持っていけるわけないでしょ!」


叱られた男は、金髪を無造作にかきあげてポーズを作りながらもまだにやにやしている。にやけた野郎だが、そのヘーゼルグリーンの瞳に涙がうっすら光るのを、俺は見逃さなかった。


「ボス……」


二人はほとんど同時につぶやいた。


「あれから10年……早いわね。さ、お墓に花を手向けてから、アンナさんに会いにいきましょ」


黒いしっとりしたショートカットを撫で付けながら、レイがうつむく。その背中を押すように、セルジュが優しく墓地へ連れていった。



墓地というのは、ここからすぐ近くに見える白い十字架の群れだ。小鳥がいろいろ話してくれたなだが、あそこには先の戦争で亡くなった人々が葬られているのだという。


去っていく二人の黒いレザージャケットの背中に、赤い文字が派手にデザインされていた。


「何者かな」


「一流の要人警護、ゾルダートのメンバーだね。制服で分かるよ」


「詳しいな」


「まあね」


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