アプフェル―幽霊と恋とリンゴたち

リンゴのボディガードたち

もっと痛いかと思っていたが、十分水気を含んだ俺のからだは、衝撃をかなり和らげてくれたため、潰されずにすんだ。


シュテファンは、まさに「傷」心の俺を置いて、ふよふよと透き通る姿で連中を追いかけていった。


しばらくして、シュテファンは連中と一緒に戻ってきた。


「ゆ、幽霊が出るなんて……」


びっくりして全力疾走したらしく、レイの額は汗で濡れて前髪が貼り付いている。そこがなんとも色っぽい。


「ボス、オレの前に化けて出るなんて〜……相変わらず……ぜえぜえ……やってくれますねぇ〜……オレは霊とかそういうのはダメだって知ってるのにな〜……」


そうやって肩で息をしているセルジュの頭に透明な手を乗せて笑っているなんて、ずいぶんシュテファンも人が悪いものだ。


「と、とにかく言われたように、このリンゴをアンナさんに届けなきゃ」


「リンゴのボディガードなんてしたことないですよ〜」


「うるさい!また怖い目に遭うわよ。それに、ボスの命令なんだからね」


「はいはい〜……でも、ボス、いいんですかね〜」


何やら意味深な言葉を吐くセルジュは、ポケットに俺を突っ込んだ。


もっと丁寧に扱え!


そこにシュテファンはすっと隣に帰ってきた。


「何で俺も行くんだ?」


「だって、君をひとりぼっちにしたくないからね」


俺は、見捨てられなかったのが嬉しかった。そして、今まで胡散臭いと思っていたシュテファンに好意を抱き、今まで英雄気取りだった自分を反省した。


「アンナって?」


俺はシュテファンに聞いてみた。


「戦争中に、僕が見逃した敵のスパイだ。亡くした姉にどこか似ていて……しばらくかくまっていたが、大統領を警護する任務の途中で、僕は狙撃に倒れた。死んだことは仕方ない。多くの人々を死の闇に追いやった罰だ。でも、彼女は、アンナのことは……思い切れなくてね」


しょっぱい液体が俺のからだに染み渡った。


「……でも、10年だぞ?」


「わかっているが……一目会えて、無事が分かれば思い切れると思うんだ」


そう単純にいくかな……と言いかけたのを、俺は無理に飲み込んだ。
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