新撰組異聞―鼻血ラプソディ
翡翠はじっと、自分を見つめる山南の目を見上げたまま、訊ねる。


「山南さんは……誰か好きな人とかいてるん?」


「え!?」


「……その、忍んで会いに行ったりするような」


「ええ、まあ……」


山南は懇意にしている男をふと、思い浮かべてみるものの、翡翠に会って数日は、男のことが1度も気にならなかった事に気づく。

まるで捨てられた子猫のような頼りなく、俯いた寂しげな瞳をした少年。

山南にとって、鼻血で汚れた顔を拭ったあの日の出会いは、刺激的だった。


動揺を抑え、平静を装い、優しく翡翠の顔を拭き、剣を交えた時に感じた感情。

山南は未だに整理できないでいる。

胸の奥が熱くなり、ギュッと心臓を掴まれたような感覚。

山南はあの日から、自分の横で聞こえる寝息に、胸が高ぶりなかなか寝付けなくなっている。

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