1%のキセキ
俺は中学卒業後、高校は地元でも有名な進学校を出た。
そして、都会の大学の医学部に進学した。
研修期間と医者になりたての頃は、少しでも経験を積みたくて大学病院で下積みをした。
今は地元の総合病院に就職し、脳神経外科で働いている。
大学病院とはだいぶ勝手が違く最初は戸惑ったが、殺伐とした都会の病院より、慣れればこっちの方がアットホームで働きやすい。
今日の午前中は、脳神経外科の外来担当だった。
次々と患者さんを診察していく。脳外科に来る患者さんは、基本ほとんど高齢者ばかりだ。
「西川さーん、どうぞー」
看護師が次の患者の名前を呼ぶ。
ぱっと見、珍しく若い女性が入ってきたと思ったら、その人は目を丸くして俺の顔を凝視した。
「そ、そうちゃん?」
その懐かしい呼び名に、すかさず未結だと気付いた。
「未結か」
俺もびっくりして、見返してしまう。
最後に見たのは、制服姿の高校生だった未結。
今じゃ別人のように大人になってしまった。
俺の知る限りこいつはずっと、学生時代黒髪のおかっぱだった。
今では、セミロングの茶色い髪にうっすら化粧をしている。
だけど、ほんわかした雰囲気はそのまま。
たれ目がちな目も、邪気のない笑顔もあの頃のままだ。
「わー、本当にお医者さんだー。お母さんからね、お医者さんになったとは聞いてたけど、こっちに帰ってきてたんだねー」
そう言って、下から上まで見られ、なんとなく照れくさい。
「あぁ」
「実家から通ってるの?」
「いや病院の近くで一人で住んでる」
「そうなんだ、すごいなぁ。そうちゃんがお医者さんかぁ。昔から、頭良かったもんねー。でも昔は、学校の検診でお医者さんが来る度泣いて、注射の時なんて大変だったのにねー。そんな、そうちゃんがお医者さんになるなんてねー」
自分の情けない昔話を暴露する未結。本人は昔話をしているつもろだろうが、後ろの若いナースが俺を見てニヤニヤしている。
たまらず、軽く咳払いをして話を遮った。
「……で、今日はどうしたんだ?」
「あ、ごめん、久しぶりに会ったらつい嬉しくて、話し過ぎちゃった。ちょっとね、転んで頭ぶつけちゃって少し血出ちゃったから見てもらおうと思って」
そう言ってぶつけたと思われる左側の後頭部に手を添える未結。
「ちょっと見せて」
「あ、うん」
未結の茶色く細い髪をかき分け傷口を探す。赤く腫れた傷を見つけたが、出血はごく少量ですでに止まっていた。
傷も抜う必要がない浅く小さなもの。
「転んだ時、何にぶつけたんだ?」
「えっと、テーブルの角に」
「後ろに転んだのか?」
「あ、うん。足すべっちゃって」
なんとも未結らしい。
おっちょこちょいなのは変わってないようだ。
悪戯っぽく笑う彼女に、思わず自分の顔も綻んでしまう。