1%のキセキ



「ただいま」


夕飯の支度をしていると、彼が帰って来た。

結婚間近の彼と同棲し始めてもう1年がたとうとしている。


「お帰りなさい」

ぱたぱたと玄関先まで出迎える。もう気分は新妻だ。


彼はいつも通り、ダイニングテーブルに座って私の作ったご飯が出てくるのをテレビを見ながら待つ。

「今日は休みだったよな?何してたの?」

不意にそう聞かれて、別に後ろめたいことなんて何一つないのにドキっとしてしまう。


「今日は、部屋の掃除してたの」

そう言いながら、テーブルにビールとちょっとしたおつまみを持っていく。

「確かに綺麗になってるな」

「でしょーっ」

「ありがとな」

そう言って私の手を優しく握った。


「未結」

一瞬その握る手に力がこめられた。

思わず、びくっとしてしまう。


「たまには一緒にお風呂に入ろうか?」

「うん」


私は幸せだ。

結婚を約束した未来の優しい旦那様との変わらぬ日々。

結婚したらきっと、もっと幸せになるんだ。


そう、この手がきっと幸せにしてくれる。



その夜、すぐ傍らに寝ている彼がいるにも関わらず、そうちゃんの夢を見た。

そう一番苦い思い出が残る卒業式の夢。

卒業式、私は本当は隠し撮りなんてする予定じゃなかった。

本当は……、

最後にそうちゃんから制服のボタンをもらおうと思っていた。

もらってあげる、なんてちょっと茶化しながら。

だけど話しかけようか戸惑っているうちに、そうちゃんのボタンは全てなくなっていた。

せめて何か残るものを……。

それが写真だったのだ。

しかも人混みにまみれて、ちらっと小さく横顔しか写っていない写真。

でも、それだけでも、私には十分だった。



< 8 / 231 >

この作品をシェア

pagetop