私と彼の恋愛理論
だからといって、里沙が言うように皆川に乗り換えようなどと考えているわけではない。

ただ、夜、一人で居ると考えてしまうのだ。

尚樹の変化の理由を。

そして、ベッドの中で彼のことを待ってしまう。

明け方まで深くは眠れぬまま、ずっと玄関の鍵穴に聞き耳を立てながら。

そんな時間から少しでも逃れたくて、私は皆川からの誘いに乗ってしまったのだった。



同じ作家が好きなくらいだ、趣味は合うだろうと思っていた。

皆川との食事は私に期待通りの効果をもたらしてくれた。
会話も弾み、私たちはもう何年も前から友人であるかのように時間を楽しんだ。

年上の落ちついた雰囲気、知的で柔らかい口調。
すべてが思わず笑ってしまうくらいに想像通りで、期待を裏切らない。

皆川と会っている時は、尚樹のことを忘れることができたのだ。



何度か食事をして、すっかり打ち解けて、気が緩んだのか。
それとも勧められて飲んだワインが予想以上に回っていたせいか。

気付けば、皆川に恋愛相談をしていた。

恋人の私と正反対の性格。
最近の変化。
しばらく連絡を取っていないこと。

すべて打ち明けた後、皆川は静かに呟いた。

「正反対の感性を持つ人間と、人生を伴にするのは難しいと思う。少なくとも、僕には無理だ。」



この人の手を取れば、楽になれるのかもしれない。

ぼんやりとそう考えながら、帰宅して酔い醒ましの水を飲む。

ひんやりとした感触が喉を通り過ぎる度に、どんどん酔いが醒めていく。

酔いだけではない。

心はあっという間に目の前に置かれた現実へと引き戻される。

それは魔法のように、やさしくゆっくりとは解けてくれない。



私が欲しいのは。

私が待っているのは。

あの手じゃない。
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