私と彼の恋愛理論
そして、もう一つ。

皆川の誘いに乗ってしまった理由があるとするならば。

最近の尚樹の不自然な言動。
そのことに、幾ばくか心を揺さぶられていることは確かだと思う。

突然の引っ越し宣言以来、電話で何度か話したものの、彼に会っていない。

忙しくなると連絡しても返事がないのはいつものことだが、今までは毎日のように私のアパートに泊まりにきていたので、こんなに会えないということはなかった。

そして、未だに私に知らされない彼の引っ越し先。

「忙しいなら、家に洗濯しに行くよ。」

「…いいよ。とりあえず洗濯物は溜まってない。」

電話で尋ねても、はぐらかされるはかりだった。

合い鍵をくれとは言わない。
せめて、どこに住んでいるのか教えてくれたら、会いに行けるのに。

どんどん膨らみ続ける違和感に、ある一つの可能性が思い浮かんでは、私の頭を占領する。

尚樹は、私と距離を置こうとしているのではないか。

彼の性格からして、浮気をしていることはないと思う。
でも、もし、彼に他に好きな人ができたら。
あるいは、仕事に集中したくて、私が邪魔になったのかもしれない。
毎日、考えるのはそんなことばかりで。

彼と会わなくなって、最後に連絡した日から二週間。

私が今更ながらに気が付いたのは。



そういえば、好きだと言われたことは、ただの一度もない。


たった一つの冷たい事実だった。
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