私と彼の恋愛理論
僕の両親は世間的に見ても仲がいい方だと思う。


設計士のお父さんは無駄なことが大嫌いだ。

そういう考え方のことを「ごうりしゅぎ」と言うらしい。

一人息子の僕にも手加減なく厳しいことを言うけど、大体お父さんのアドバイスはためになるので、僕はとても頼りにしている。


それに対して、図書館で司書をしている母は、思いつきだけで生きている。

「何となく、こっち」とか言いながら、いろんなことをあっさり決めてしまう。

でも、お母さんが作るご飯は毎日おいしいし、買ってくる服はだいたいかっこいい。


なので、僕はいつも、とにかく早く答えが欲しいときはお母さんに、絶対に失敗したくないときはお父さんに相談することにしている。

この10年の人生の中で僕なりに編み出した技だ。



そんな正反対の性格の二人がなぜ仲がいいのか本当に謎だ。

たまに、お父さんがお母さんに対して怒っているというか注意していることはあるけど、お母さんはいつもそれを機嫌よく聞いている。

「分かった。ごめんね。次からは気を付けるよ。」なんて言いながら。

そう言われるとそれ以上は何も言えないみたいで、お父さんはあっさり退散する。

そして、何事もなかったように会話している。


お父さんは僕が生まれた頃に転職をした。

と言っても、同じ設計士だけど。

前は少し大きな建設会社で働いていたのだけれど、今は小さな設計事務所で働いている。

お父さんは、大学の先輩である社長さんに誘われたと言っているけど、本当は、忙しくてほとんど家に帰ってこられなかったお父さんを心配していたお母さんを安心させるためだったみたい。

前に、お父さんの忘れ物を届けたとき、社長さんがこっそり教えてくれた。


二人はいまだにお互いを名前で呼び合っている。
僕には当たり前のことだけど、子どもが生まれたら「パパ・ママ」や「お父さん・お母さん」などと呼び合うのがふつうみたいだ。
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