恋愛事案は内密に
大和は口を閉じたままだ。

カクテルをかきまぜる氷の音が騒がしい。

大和が黙っている最中、どこかの誰かの一杯を精魂込めてつくったものをグラスに注ぐ。

ピンク色に染まったグラスをウエイターが持って、席にはこんでいた。

肩までのびる髪をかきあげたスーツ姿の女性のもとへグラスが届けられている。

女性はうつむき加減でグラスに口をつけていた。

「もういいだろ。オレ、明日早いんだ」

「……ごめんね」

私のことを見ずに腕時計に目をやり、言葉をムシするかのように、彼は出ていった。

目の前のロウソクが小さく揺れている。

泣かないつもりが、なぜか自然と涙があふれていた。

あんなに大好きだったのに。

きつく抱きしめあい、どちらともなく力尽きるまで愛し合ったのに。

好きだよ、愛しているっていう言葉は目の前にあるカクテルのように甘く酔わせて次の日にはすぐにどこかに飛んでしまうようなものだったんだろうか。

頼んだソルティドックをぐいっと一杯飲み干す。

塩のしょっぱさとグレープフルーツが喉の奥に甘く焼ける。

「……ずっと一緒にいるっていったじゃない」
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