世界でいちばん、大キライ。
曽我部は自嘲気味に「ククッ」と笑った。
目尻に皺を作り、細い目をまた少し細めて笑う顔に、桃花は目を奪われる。

(笑った顔が可愛い、だなんて、歳上の人に失礼かな)

「エーゴ。勉強してるって、まさか学生?」
「まっ、ままままさか!!もうとっくに卒業してます!」
「あ、そうなの?まぁでも、俺がオッサンには変わんねーか」
「オッサンって!私はそんなふうには……あ」

建前じゃなく本音で否定をしかけたときに、桃花は通りの向こうを歩く女子に目が留まった。
「あ」という不自然な語尾で、桃花の視線を辿るように曽我部も立ち止まり、顔を横に向ける。

「あれ……あのコ……」

思わず指をさした桃花と、その少女――麻美と目を合わせた。
そこまで広くはない道路越しだから、麻美にも桃花と曽我部の存在はわかるはず。

「……え?」

驚きで声を漏らしたのは桃花。
唖然として麻美を見たあとに、目を丸くしたまま曽我部を仰ぎ見る。
少し遅れて顔を元に戻し、桃花の視線に気付いた曽我部は小さく息を吐いた。

(今……無視した?よね)

通り越しに目が合ったのは確実。そして、明らかに麻美はそれを無視して顔を背けると、遠ざかるように路地に入り込んで消えてしまったのだ。

なんとなく気まずい空気で桃花と曽我部はその場に立ったまま。
すると、ボソッと曽我部が漏らす。

「……やっぱ母親がいねぇとダメなんだろーなぁ」
「……え」
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