世界でいちばん、大キライ。
「こんなんで足りんの?」

コンビニ店内で、腕を組んで待っている曽我部の元に遠慮がちに商品を持っていくと、目を丸くして言われてしまう。
元々大食いではないが、それを抜きにしても、〝奢る〟と言われてしまった手前、桃花は遠慮してしまっていたというのはあった。

「はい」
「ふーん。じゃ、貸して」

曽我部があの大きな片手で、ひょいとおにぎりひとつと野菜ジュースを拾い上げる。
桃花は雑誌コーナーをうろうろと落ち着きなくしてる間に、出口の前に来た曽我部に呼ばれた。

コンビニを出て、そのまま来た道を共に引き返す。

(別に送ってくれてるとかじゃないし!この人の家が方向一緒だから……)

淡い期待を制するように、桃花は俯きながら曽我部の隣を歩く。
気付けば買い物袋をそのまま持たせてることに気付いたが、買ってもらったものを「持ちます」というのも図々しいのかと考えながら、なにも言いだせずにいた。

すると、曽我部が口火を切った。

「俺、英語はそれなりに読めるんだけど、聞く方はまぁ苦手で。さっきの。なんつってたんだ?ケーキ屋がどーのこーのくらいしか覚えてねぇや」

そこで桃花は改めて曽我部の顔を仰ぎ見た。
さっきまでは喉元までしか視線を上げられずにいたために、無精ヒゲが薄らと伸びてることにいまさら気がつく。

いつも整ったスーツ姿しか見ていない。
だから、ちょっと色の落ちたジーンズ姿も剃っていないヒゲも、桃花にとっては何とも言えない緊張感を与えられるギャップ。

「あっ、と……ケーキ屋が近くにあるかって聞かれて。それから、バス停も。ふたつ先で友達と待ち合わせだって言ってた……ので」

もごもごと返答しながら、曽我部の反応を窺うようにちらりと見る。
彼は、またもや右手を顎に添え……ヒゲの感触を無意識に確かめるようにしながら宙を眺めて言った。

「あぁ。なんだ。冷静になればわかりそうなモンなのにな。なんて、ヒアリングじゃやっぱ無理だろうけど」
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