世界でいちばん、大キライ。
「……どうしてこんなに」

〝違うのか〟

最後の言葉まで口に出来ないまま、桃花は呆気に取られたように手元のラテに目を落とした。

(ミルクの温度が絶妙とか? 口当たりも違うし……。それにちょっとビターな感じもするような)

「あれー。オイシくなかった?」

ボーッとしながら自分の味覚の記憶を辿り、無意識に難しい顔をしている桃花を覗き込んでジョシュアが言った。
桃花は慌てて顔を上げると、すぐ目の前にジョシュアの顔があって一瞬止まる。
しかしすぐに、顔を何度も横に振って否定した。

「いっ、いえ! そうじゃなくて! すごく美味しいです、本当に」
「ホント? ならヨカッタな!」
「何がこんなに違うんだろう……」

頻りに首を捻る桃花に、ジョシュアはフッと笑う。

「技術ももちろん自信持ってる。大体、バリスタは全員『自分がいちばん』と思ってるケド。だけど、やっぱり、どれだけ飲んで、どれだけ触れてきたか。Experience point(経験値)は絶対大きいとオレは思う」

ジョシュアの顔つきが指導者になっていることに気付いて目を奪われる。

「今日は、そのスイーツに合うように、って考えながら淹れてみた」
(スイーツに……ああ、だからだ)

ふと個包装された焼き菓子を見て納得した。
少しビターに仕上げられたこのラテは、紛れもなく、今の桃花のことを考えて淹れたもの。
甘いお菓子と合うように。ほんの僅かかもしれないが、確かに苦みを活かすように作ってくれたもの。

桃花はジョシュアの腕前を目の当たりにさせられて、小さく身震いをした。
疑っていたわけではないけれど、どれだけすごいのかは知らなかった。それを知った今、桃花は緊張と共に、わくわくとするような高揚感に包まれる。

こんなすごい人の元で学べる。

そう改めて思うと、桃花の心音は暫く落ち着かないままだった。
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