世界でいちばん、大キライ。
そのままレジを通ると、時間のないふたりは再び来た道を引き返し始める。
ようやく気持ちが落ち着いてきたときに、隣を歩く久志に桃花から話しかけた。

「……聞きました。麻美ちゃんから。あなたと麻美ちゃんの関係」

久志を見ることなく、進行方向をまっすぐと見つめたまま静かに続ける。

「あの日、たまたま麻美ちゃんを店から見つけて、思わず声をかけてしまったんです」
「……よく、アイツが大人しく捕まったな」
「あ、いえ。一度逃げられて」
「え? あんた、それ追っかけたの?」

余程驚いたらしい久志は足を止め、目を丸くさせて桃花を見た。
まさかそんな目を向けられるなんて思いもしてない桃花もまた、同じように驚いた目を久志に返す。

「いや……なんか、もう夢中で……」

乾いた笑いとともに頭を掻きながら、桃花はその時のことを思い出しながらまた話しだす。

「それで、〝女同士〟。ちょっと話をしまして……いえ、話って言っても、あれです。麻美ちゃんの話はほとんど……私の話ばっかりでしたよ。母子家庭で、コーヒーが好きで、それで留学したい~だなんて!」

そう言って笑う桃花に、久志はポケットに突っこんでいた片手を出して、首元に伸ばしながら言う。

「……あー、そういえば、麻美(あいつ)が英語をあんたにって……いや。迷惑だな。……うん、今の聞かなかったことにして」

大きな体に反して、ものすごく小さな声で独り言のように呟いた久志だが、桃花の耳には全て聞こえていて――。

「いいですよ。私なんかでよければ」

迷うことなくOKすると、久志が恐縮したように小さく首を横に振った。

「いや、でも本気かどうかまだわかんなくて」
「麻美ちゃん次第ですけど。こっちも勉強になるし、私は構いませんから」

まだ多少心配そうな、少し困った表情をしてる久志を正面に見据えて、桃花がふっと笑った。

「お父さん……って、そういう表情(カオ)するんですかね」
「……え……」
「あ。すみません。お父さんではないのに……。でも、なんとなくそれを想像させる瞬間がある気がして」
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