世界でいちばん、大キライ。

「これもね! ずーっとみてたの! 面白いし、勉強にもなるし、一石二鳥だよ!」

ぽかんと自分を見つめ続ける麻美にようやく気付いた桃花は、首を傾げて不思議そうに漏らした。

「……あれ? なんかおかしなこと言った? 私……」

全てにおいて反応が薄く感じていた桃花は、不安げに恐る恐る尋ねる。
すると、麻美が小さく首を横に振って口を開いた。

「ううん。違くて。なんかもっと、特別な……難しいことしてたんだと思ってたから」

麻美はそっと手を伸ばし、今差し出されたDVDを手にした。
その裏面を眺めながら、ふ、と突然笑いを零す。

ほんの僅かな時間の、瞬く間の出来事。
けれど、その貴重な麻美の笑顔を見た桃花は、なんだかすごくうれしくなって前のめりで両肘をつく。

「なんか、いーね。こういうの!」
「は?」
「私、恥ずかしながら、あんまりこうやって仕事以外で話しすることないから。なんか、ちょっと、救われる」

思わず弱音のように零してしまった。
麻美を目にすれば、嫌でも思い出すのは久志のこと。

後悔しつつ、けれどどうしてもまだ完全に諦められないでいる想い。
それはおそらく、久志の答え方もひとつの理由だった。

『今、余裕ない』

その久志の言葉に、都合よく解釈してしまう自分がいて。

〝じゃあ、『今』じゃなければ……?〟
〝嫌いとか、対象外とかではないってこと?〟

けれど、もう一人の冷静な自分が戒める。

〝ツゴウヨクカンガエスギ〟と――。
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