世界でいちばん、大キライ。
「すんません。コレ、俺のなんで」

低い声と同時に解放されずにいた右手を、また背後から別の誰かに掴まれる。
桃花が驚き振り向けば、信じられない光景に、ただ口を小さく開けっぱなしにしていた。

「離してもらえます?」
「……あ、あぁ」

丁寧な言葉遣いがやけに怖く感じたのか、桃花を引き入れようとした男はたじろぎながら手を離す。
それもそのはず。桃花の後ろに現れた男は、玄関のドアほどの長身。そして、細く鋭い目つきに、重低音の声。

その圧倒的な威圧感に、反抗する余地も与えられず。
完全に固まってしまった客の男を余所に、もう一人の男は桃花をグイッと引き寄せる。桃花はそのまま、斜(はす)向かいの部屋に連れ込まれてしまった。

バタン、と扉が閉まり、2メートル四方もない玄関に桃花はその救出してくれた男と立っていた。
桃花の意識は、家に引き込まれたことでも、手を掴まれたままということでもなく。

凝視するように、身長差20センチはある隣の男を大きく見上げた。

(……絶対、そう)

瞬きもせず、自分を助け出してくれた男の顔をもう一度見て確信する。
その異常なまでの視線に男は少し気まずそうな顔をして、その原因を思いついたように、パッと桃花の手を離した。

「あ、悪い」
「……いえ。私こそ、ありがとうございます」
「……あそこ。あんまイイ印象なかったから。女……毎回違うし」

首裏を軽く掻きながらぼそりと男が言い終わると、桃花と再び目が合った。

「あんたんとこ、デリバリーやってんだ」
「あ、はい。決められた時間と、狭い範囲でですけ……ど……」
(……まさか――)

その男らしい声が、桃花の体温を上昇させる。
それは声の質だけが原因ではなく……。

「知っ……て?」

< 6 / 214 >

この作品をシェア

pagetop