櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ
Ⅳ*謎の声と命を狙われた王族
***
「準備は抜かりなく行われております
シルベスター王子
・・
.........いえ、新国王」
そう言いながら、こちらを見るその男は、よほど愉快なのだろう。
普段は見せることのない、不慣れな笑を口元に浮かべている。
シルベスターは、その男を不快なものでも見るかのように、口元を歪ませた。
「............何を考えている、貴様」
「ハハハッ、貴様とは......
初めてそう呼ばれましたよ。
お忘れか?御自分の立場を...」
それはまるで脅しのように、冷たく蔑んだ目で、男はシルベスターを見つめた。
「.........お分かりでしょう、シルベスター国王。貴方自身が、一番、今の状況・これからの動き・自身の運命、すべてを理解されているはずだ」
「............」
「ヘマをすれば......、分かっていますね?
貴方なら」
シルベスターは静かに怒りを抑え、男の話を聞く。その手は抑えきれぬ怒りのあまり、小刻みに震えている。
「.........時間だ。戻れ」
「.........御意」
不敵な笑みを浮かべながら去っていく男の背中を見送ったシルベスターは、盛大なため息をついた。
これから先、自分が辿るであろう道を想像し、頭を痛める。
コン、コン
男が出ていった扉の向こうから、ノックの音がし、静かに開いた。
「.........フラン、か」
そこには、彼が最も愛する女性、そして、正真正銘の妻である、フランツィスカが立っていた。
「......シルベスター」
不安そうに自分を見つめ、名を呼ぶ彼女。
シルベスターは強がるように、笑って見せる。
しかし
「.........はぁ?何を笑っているんですか?
強がりのつもりでしょうけど、強がれていません。まったく...馬鹿ですか貴方は」
見た目からは程遠い、きつめの口調は、この切羽詰った状況下でも一切変わらない。
「ふっ、君は...強いな」
自嘲的に笑うシルベスターに、フランツィスカはまた溜息をつき鋭い眼差しを向ける。
「貴方も強い筈です、シルベスター。
気弱なことばかり言わないで!貴方はもう、国王なんです。守らなければならない物が、貴方にはある!
私が惚れた男は、そんな弱い男じゃないわ!!」
「!おぉ...言うねぇ、フラン
.........後悔するなよ、巻き込むぞ?」
「もちろん」とそう言う彼女は、やっぱり、誰よりも強いとシルベスターは思う。
彼女がいるから、頑張れる。
色んな大切なものを奪われて、どんなに辛くても、彼女がいるから戦おうと思える。
自分は、強いわけじゃない。
彼女のために、強くなりたいと思うんだ。
「行こうか」
「ええ」
「.........フラン」
「ん?」
「お前のことは、俺が守るから」
「!」
「絶対に...何があっても、君だけは」
これは、誓い。
もう失いたくない。
大切なものは、俺が守る。
絶対に。