櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ













心地よい風が、暖かな日の温もりを運んでくる。



ここ、フェルダン王国は他のどの国より穏やかだ。豊かな自然のおかげか、はたまた王族が持つその魔力のおかげか。



この世界の国々は、魔法というものに支えられ存在している。



だが、その魔法を使える者自体が極僅かしか存在しない。



理由として最も有力なものは、魔力そのものに『遺伝性』がないこととされている。あくまで素質の問題なのだ。それは産まれたその瞬間に判断される。



魔力を持って生まれる子供には、生まれたその瞬間に属性に関連した何かしらの自然現象が起こる。



例えば水属性の魔力を持った子が生まれてきたとすれば、その子の周りに周辺の水が集まったり、その水で自在に遊んだり。



実際にはありえないことが起こるのだ。



魔力が強いものほど、その現象の規模は大きくなる。大雨が降ったり嵐になったり、噴火が起こったり。予測もできない自然現象が起こるのだ。



そうやって、何かしらの魔力を持って生まれた子供達は、国に一つしかない魔法学校に通いゆくゆくは王宮で働くこととなる。そのため、魔力をもって生まれゆく子供達は一生その一家の誇りとして生きていくことができる。



ただし、先程も言った通り、魔力に遺伝性はない。どんなに優秀な魔法使いが両親であったとしても、その子が魔力を持って生まれる保証はどこにもないのだ。



確率にしたらとてつもなく低い。平民の家から生まれる事もあれば、貴族の家から生まれることもある。一年で一人も生まれないという事も良くある話だ。



だから、国民は誰も無駄な期待は寄せない。元気な子が生まれればそれでいいのだと、至極平和に生活ができるのだ。



ただし、それが一切できない一族がひとつだけ存在する。それが『王族』。



どういうわけか、王族だけには魔力に遺伝性が存在するのだ。



それはどの国も同じ。属性は違えど、魔力は必ず遺伝する。それこそが王族が王族たる所以なのかもしれない。



このフェルダン王国の王族もそう。皆が火属性の魔法を使うことが出来る。暖かな陽の光を具現化するように。



たった一人を除いて――――――












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